分布調査の結果に基づきまとめられた論文とその内容
Yamaura Y, Kawamura K, Senzaki M, Kitazawa M, Nishiumi I, Katayama N, Amano T, Ishigooka Y, Sudo S, Osawa T & Ueta M (2025) Range size and abundance dynamics of Japanese breeding birds over 40 years suggest a potential crisis in warm areas. Scientific Reports 15: 17281.
全国鳥類繁殖分布調査の結果を解析したところ,温暖な地域では在来の鳥類が減少する一方で,外来種が分布と個体数を拡大していることが明らかになりました。
1970年代から1990年代にかけて分布を縮小していた種も含め,多くの種が分布面積を増加・回復させていました(図1b, c)。ところが,この20年間の個体数の変化をみると,多くの種が減少しており(図1d),この傾向は特に開放地性種や水鳥,猛禽類で顕著でした。
また,多くの種で,この20年間の気温上昇に合わせるように,分布域の温暖端(南端または低地など)がより冷涼な方向(北方や高地)へ移動している傾向が見られました。一方,温暖な地域では外来種が分布や個体数を増加させていることが明らかになりました(図1a-d)。これらの結果は,温暖な地域で在来の鳥類群集が気温の上昇によって衰退し,外来種が鳥類群集を優占しつつあるという,重大な危機が進行している可能性を示しています。
今後は,外来種のさらなる拡大を抑制するとともに,手つかずの生息地が限られる温暖な地域においては,農地や人工林,二次林のような人手が入った場所でも在来種を保全できる手法の開発が求められます。
図1 外来種と在来種の温度指数,分布・個体数の変化率の比較。プロット内の太線は四分位範囲(値の50%が含まれる範囲),点は中央値,その隣の黒い四角と誤差線は平均値と95%信頼区間。図内の数字は,対象となった各種群の種数を示す。
(a) 種の温度指数は,種が分布する範囲の代表的な年平均気温を示し,外来種は在来種よりも一般に温暖な地域に分布していることが分かる。(b-d) 外来種と在来種ごとに,各時期の分布面積と個体数の変化率を示す。変化率は対数スケールで示しており,0が変化なし,正の値は増加,負の値は減少を示す。
植田睦之・三上修 (印刷中) 1990年代から2010年代にかけての東京都心部でのスズメの増加と郊外での減少.Bird Research 21: A1-.
東京都鳥類繁殖分布調査の結果から,1990年代は郊外部で多かったスズメが,2010年代は都心部の方が多くなっており,分布が逆転していることがわかりました(図1)。そこで,これまで生息環境として適していないと考えられていた都市部でなぜ増加しているのかについて検討しました。
スズメの採食地となる緑地は郊外で減少し,都心部では増加していたことより,この変化がスズメの増減に影響していると考えられましたが,それでも2010年代の緑地面積は依然として郊外の方が広く,緑地面積だけではスズメの変化を説明できないこともわかりました。営巣場所はおもに電柱に営巣するのは郊外も都心部も一緒で,分布変化の原因としては考えにくいのに対し,捕食者である猛禽類は,都心部で少なく,また近年減少傾向にあったので,これが影響している可能性が考えられました。
巣立ちヒナ数は1羽の場合が多く,繁殖成功率は都心部の方が低いこともわかりました。営巣場所となる電柱の多さや捕食者の少なさから都心部にスズメが集まったものの,繁殖成功度が低いというエコロジカルトラップになっている可能性も考えられました。ただし,過去の研究と比べると東京では繁殖回数が多いようで,それで個体群が維持されている可能性もあり,今後そのあたりを調べたいと考えています。
図1 東京都のスズメの記録羽数の経度分布。1990年代は西側の郊外部(図の左側)の方が個体数が多い傾向があったが,2010年代は東側の都心部(図の右側)の方が多い傾向に変り,分布傾向が逆転していた。
植田睦之・佐藤望 (2024) 東京都本土低地部における繁殖鳥類の1970年代から2010年代の40年間の変化.Bird Research 20: A33-A40.
東京都鳥類繁殖分布調査の1970年代,1990年代,2010年代のデータを解析して,40年間の東京低地部の鳥類相の変化を記載した論文です。森林性の鳥類は1970年代から90年代にかけて分布が縮小した種が多かったものの,2010年代にかけて分布を拡大し,回復したのに対して,非森林性の鳥類は,回復が見られませんでした。森林性の鳥類の種数と森林率には相関があり(図1A),森林率も1990年代にかけて減少し,その後増加していることから,森林面積の増減が鳥類相の変化に影響しているようでした。また,2010年代には森林率から予測されるよりも多くの鳥が記録され(図1B),樹木の成長で環境が良くなっている可能性が考えられました。
留鳥については1970年代から1990年代に分布の縮小はなく,夏鳥は縮小していました。両者とも2010年代には分布を拡大しました,夏鳥は1970年代の分布を回復させるほどまでは増加していませんでした。
図1 森林率の低い地域における森林率と森林性の鳥の種数の関係(A)と,その関係式から推測された種数と実際に記録された種数との差の年代による違い(B).各種鳥類の実際の値(〇)と平均値(■)と95%信頼区間(棒)を示した.
植田睦之・河村和洋・奴賀俊光・山ア優佑・山浦悠一 (2024) 日本の越冬期の鳥類の分布の変化と気候変動の影響.Bird Research 20: A21-A32.
全国鳥類越冬分布調査の結果をもとに越冬期の鳥類相の変化とそれに影響する要因について検討した研究です。まず繁殖分布調査のデータと比較すると,越冬期の鳥類は繁殖期の鳥類と比べてより分布を北側へと拡げていることがわかりました。繁殖期も分布は拡大しているのですが,分布域内の空白メッシュを埋めるような拡大で,北への拡大は顕著ではありませんでした。
さらに,越冬期は低温や積雪が分布の制限要因になると考えられる非森林性の地上採食の鳥類や,浅水域で採食する種,空中採食性の種は分布全体を北上させており,樹上,水中,海で採食する種も分布の北端を北上させていることもわかりました。
図 越冬期における各種鳥類の1980年代から2010年代にかけての分布の位置の変化と採食特性との関係.0は分布に変化がないことを示し,プラスは分布が北上していることを,マイナスは南下していることを示す.〇が各種の値を示し,■が平均値とバーが95%信頼区間を示す.赤で示したものは有意に北に分布を変化させていることを示す.
特に空中採食性の種は夏鳥の種に多いなど,寒さに弱いと種だと考えられますが,こうした鳥たちは1980年代からの気温の上昇に合わせて分布を北上させていて,気候の緩和に強く反応していると考えられました。地上採食性の種などそれ以外の種も気温にあわせて変化していましたが,気温の変化ほどには分布を北上させていませんでした。冬期の気候条件の厳しさが制限要因として強く働かない種は,温度に応じて分布を変化させないのか,それとも分布変化の反応が遅れていて,今後追随してくるのか,今後の長期的な調査であきらかにしたいと考えています。
この調査で明らかにできたのは分布の変化で,個体数の変化は明らかにできていません。分布が拡がった種には,ガン類のように個体数も増えている鳥から,カモ類のように分布は拡がっているものの個体数は減っているものもいます。乾田化など環境の変化や少雪がそれを助長することなどがその原因として考えられるので,今後はモニタリングサイト1000の結果なども使って,気候変動が個体数に与える影響についても明らかにしていきたいと考えています。
三上修 (2023) 鳥類繁殖分布調査の第2回(1997-2002)と第3回(2016-2020)の間にみられるスズメの減少.Bird Research 19: A21-A30.
1997-2002年と2016-2020年の繁殖分布調査の記録を比較して,スズメがどういう環境でどれくらい減少しているかを推定した研究です。これらの調査を比較した結果,個体数の減少が大きい調査地は,農地面積が広く気温が高い傾向がありました。
図 調査地の気温と田の面積とスズメの増減との関係.
しかし,その減少は,土地利用の変化では説明できませんでした。これらの調査地で個体数の減少が大きい理由として,生息適地でもとの個体数が多く,同じ割合で減少していても減少数が大きいこと,土地利用の変化を伴わない形で餌生物が減少していること,建物の建て替わりによって隙間のある建物が減少するなど営巣場所が減少していることなどが考えらます。そしてこの18年間でスズメの個体数は62.1%に減少していると推測されました。
植田睦之・山浦悠一・大澤剛士・葉山政治 (2022) 2種類の全国調査にもとづく繁殖期の森林性鳥類の分布と年平均気温.Bird Research 18: A51-A61.
全国的な鳥類調査「全国鳥類繁殖分布調査」および「モニタリングサイト1000」のデータをもちい,繁殖期の森林性鳥類の生息分布の指標となる気温(気温指数)を明らかにしました。両調査から計算された各種鳥類の気温指数はよく一致していて,信頼性の高い値が得られていると考えられます。
図 各種鳥類の記録された地点の年平均気温の全国鳥類繁殖分布調査とモニタリングサイト1000での比較.種の順番は左から,全国繁殖分布調査における年平均気温の中央値が低い順.個体数で重みづけした値を示した.
この気温指数は,今後さまざまな研究の基礎情報として利用可能なものなので,こちらからダウンロードすることができるようにしました。すでに Katayama et al. (2023) の研究で利用されています。